さ・え・ら伝記ライブラリー
小学生のころ、近所に公民館があって図書室があった。図書室と言っても公民館の一室に本棚を並べただけで、大して大きいわけでもない。
でも、本屋もない町の私はしょっちゅうでかけて、本を借りまくった。
学研のひみつシリーズとならんで、よく借りたのが、さ・え・ら伝記ライブラリー。30巻もあって、印象的な赤とクリーム色の表紙だった。
今から思えば不思議な気もする。伝記なんて今でもそんなに好きな分野じゃない。色々な分野の伝記シリーズなので、興味の向かない分野もあった。でも、なぜか、意地になって読んだ。(多分30巻と多かったのが読書好きの征服欲をくすぐったのだ)。
全部読んだかどうか覚えていない。何冊かは残したような気がする。
その後、今にいたるまで、記憶はほんのり残っていて、初見に思える人の生涯に覚えがあったり、逸話がふと思い出されたりした。
好きだったのは、「世界の屋根にいどんだ人々」(テンジンの印象が強かった(ヒラリーより)、アイガー北壁は難しい、超人的変人的な登山家が(今思えばヘルマンブール)あえて無酸素で登山した)、「宇宙を開発した人々」(ゴッダードは固体燃料)、「大空にいどんだ人々」(リリエンタールは落ちた)。うーん覚えているようで覚えてないな。辺境を歩いた人とか、日本の山に生きた人(佐々成政ってあり?)とかも読んだ記憶はあるのだが。
ケクレが夢にケクレ構造を見たという話は伝記ライブラリーで読んだと思ってたけど、ケクレは入ってない。合成染料は最初真っ黒なタール状になって失敗したと思ったけど染料として使えることが発見された、というパーキンの逸話もこのシリーズではないみたい。
以下に各巻のタイトルと取り挙げられている人をリストしてみた。
- 宇宙を開発した人々 ツォルコフスキー、ゴッダード、オーベルト、フォン-ブラウン、ガガーリン (関口 直甫)
- 大空にいどんだ人々 モンゴルフィエ、リリエンタール、ライト、リンドバーグ、ホイットル (市場 泰男)
- 生命をさぐった人々 ラマルク、ダーウィン、ハックスリ、メンデル、ミチューリン、ベルナール、パブロフ (真船 和夫)
- 秘境を探検した人々 ヘディン、スタイン、リビングストン、スタンレー (岩村 忍)
- 世界の屋根にいどんだ人々 ウィンパー、ヘックマイヤー、テンジン、ブール、コガン夫人、ウェストン (安川 茂雄)
- 記録をうちたてた人々 クーベルタン、ソープ、ヌルミ、織田幹雄、人見絹枝、オーエンス、クン夫人、ザトペック (鈴木 良徳)
- 細菌とたたかった人々 ルイ-パストゥール、ローベルト-コッホ、北里柴三郎、野口英世 (秋元 寿恵夫、 渡辺 藤一)
- 極地を探検した人々 アムンゼン、スコット、シャクルトン、白瀬中尉、バード、フックス (村山 雅美)
- 真実に生きた女性たち ナイチンゲール、コヴァレフスカヤ、ローザ-ルクセンブルグ、津田梅子、ヘレンケラー (安部井 重子)
- 芸の道に生きた人々 世阿弥、近松門左衛門、芳沢あやめ、九代目団十郎、中村翫右衛門 (野口 達二)
- 教育につくした先覚者たち 高野長英、福沢諭吉、内村鑑三、山崎兵蔵 (樋口 澄雄)
- 遺跡をほりおこした人々 シュリーマン、カーター、ウーレー、アンダーソン (泉 靖一)
- 通信の開拓者たち モールス、グレアム-ベル、マルコーニ、ド-フォレスト (市場 泰男)
- 辺境を歩いた人々 近藤富蔵、松浦武四郎、菅江真澄、笹森儀助 (宮本 常一)
- 原子力への道を開いた人々 ラザフォード、アインシュタイン、キューリー、仁科芳雄、フェルミ (藤本 陽一)
- 宇宙のなぞを解いた人々 コペルニクス、ティコ-ブラーエ、ガリレオ、ケプラー、ハーシェル、ヘール (草下 英明)
- 伝道につくした人々 鑑真、ザビエル、鈴木大拙、賀川豊彦 (志村 武)
- 明治維新につくした人々 吉田松蔭、高杉晋作、坂本竜馬、中山みき、大久保利通 (鹿野 政直)
- 悲劇の英雄たち 源義経、天草四郎時貞、佐倉惣五郎、山本五十六 (野口 達二)
- 日本の山に生きた人々 佐々成政、播隆上人、上条嘉門次、立山のガイドたち、野中至夫妻 (安川 茂雄)
- 数学をきずいた人々 ユークリッド、デカルト、ニュートン、関孝和 (村田 全)
- 海のなぞをさぐった人々 トムソン、ナンセン、シュミット、ピカール父子、ハイエルダール (松江 吉行)
- 文化の出発点となった人々 釈迦、孔子、ソクラテス、キリスト、マホメット (志村 武)
- 航路をひらいた人々 エリクソン、エンリケ王子、バスコ-ダ-ガマ、コロンブス、マジェラン、クック (瀬田 貞二、 余寧 金之助)
- 美しい音楽を作った人々 ハイドン、モーツァルト、ベートーベン、シューベルト、シューマン、チャイコフスキー、滝廉太郎 (大木 実)
- 東京を築いた人々 玉川兄弟、渋沢栄一、後藤新平、塚越芳太郎 (磯村 英一)
- うたの心に生きた人々 与謝野晶子、高村光太郎、山之口貘、金子光晴 (茨木 のり子)
- 南の島を開拓した人々 藤井富伝、中川虎之助、村岡伊平治、菅沼貞風、太田恭三郎、古川義三、原耕、捨思兄弟 (宮本 常一)
- 日本の農業につくした人々 宮崎安貞、平左衛門、昆陽、平田靱負、大蔵永常、クラーク、中山久蔵、川上善兵衛 (筑波 常治)
- 世界平和につくした人々 ザメンホフ、ロマン-ロラン、ガンジー、シュバイツァー (串田 孫一)
本シリーズは1965年ごろにさ・え・ら書房より出版。さ・え・ら書房は現在も児童書籍専門の出版社でこのシリーズも子供向け。教育的観点からのテーマ、人選も多いと見受けられる。
なお「数学をきずいた人々」は、さ・え・ら書房から2008年に復刊された。
宮本常一著の2冊「辺境を歩いた人々」「南の島を開拓した人々」は、河出書房から復刊している(人選がマニアックすぎる。それを復刊しようと思う河出もマニアック -- だが今リストを眺めて読みたいと思わせるのはこの2冊だったりする)。
「うたの心に生きた人々」(茨木のり子著)はちくま文庫から復刊。
amazon.co.jpで、中古で一番高い値段が付いているのが「明治維新につくした人々」12,475円。なぜだろう。有名人の中の知らない人、中山みき、は天理教教祖(明治維新につくしてないような気もするが)。
こうしてみると、知らない(忘れている)人がとても多い。リストしておけばまた役に立つこともあるかと思う。一人一人Wikipediaを読むのもまた楽しい。それに偉人と言われる人は映画化とかしてリバイバルするものなのだ。
今こういうシリーズを作るなら、コンピュータ関係、ソフトウェア関係でそれぞれ一冊あってもいいかな(現代すぎて人選が難しいかも)。
デザインや建築系があってもいいかも、と思って気付いたが、元の30巻に、音楽や芸能はあっても美術系はなかったんだな。
ヒッグスも発見されて素粒子論も一段落したので「物質の究極にいどんだ人々」という巻は作れるな(1960年代は標準理論がようやく完成したころ。クォークもWボソンもまだ見つかってなかった)。というか量子力学の巻もなかったんだな。
アインシュタインはあるけど「原子力への道を開いた人々」と言われるとかなり違和感がある。